【連載:多重人格彼女】第4話「帰りたくない」
1時間後にかかってきた従兄弟からの電話にアゲハは出なかった。
「出なくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないかもしれませんが、今は出たくないので出ません。」
「そうですか...」
言葉が続かない。
マシロがいないので、おかれている状況もわからないし何をどう話したらいいのかも検討がつかない。そんな時アゲハが言葉を発した。
「帰りたくないなぁ...」
確かに、事情は知らないまでも束縛のキツい従兄弟の居る家に帰りたくない気持ちはわかる。
「そうだ、私引越しして一人暮らしするんです。」
アゲハはいきなり話題を変えた。
「そうなんですか、じゃあこれからは自由ですね。」
「自由ではないんですけどね...」
何か言うと返せない返答が必ず返ってくるので会話が成り立たないし会話しづらい。
もう帰ろうか、そう言おうとしたとき
アゲハが言葉を発した。
「帰りたくない」
語気を強めた発言に僕は安易に、そうですよね、というような同意ができず黙ってしまった。
続けてアゲハが言った。
「あの、ジュンさん」
え、いきなり何、なんか怖い...
と感じながら恐る恐る答えた。
「はい」
アゲハが本題を切り出した。
「次の店行きましょう。飲みたいです。」
1軒目のこの店ではソフトドリンクを頼んでいたアゲハが飲みたいと言ってきた。
僕は最初から飲んでたので店を変えても変えなくてもどちらでもよかったし、それ以前にもう帰ろうと思っていたくらいだったので
「別にいいですよ、そうしましょうか」
という答えくらいしかできなかった。
意志のこもった感じだったのもあって、帰ろうとは言いだせなくなっていた。
そのやりとりをして少し経った後、僕らは1軒目を出て2軒目に向かった。
(続く)