【連載:多重人格彼女】第1話「友人の友人」
普段、大学院に通っている僕は
その日、新宿にいた。
ネットで知り合った友人のマシロとマシロの大学の友人アゲハの3人で会う約束をしていたからだ。
待ち合わせの時間の30分くらい前、友人であるマシロから行けなくなったという連絡が届いた。
既に新宿にいた僕はマシロにそのことを伝えたが返事はなかった。急用だと書いてあったのでメールを見る暇もないのだろう。
中止を確定する情報は何もない。
一人来れなくなった人がいるだけだ。
もしアゲハが来ていたら一人で待たせてしまうことになるし、僕が行かなければ無断でドタキャンしたことになってしまう。
僕とアゲハの間を取り持つ友人が行けなくなったのなら待ち合わせは中止と考えるのが普通かもしれない。けれど僕は念のため待ち合わせ場所へ向かった。
アゲハとは会ったことがなかったので連絡先は知らなかった。ただ、写真は見たことがあった。だから、もしかしたら見つけられるかもしれない。
待ち合わせの時間になるまでアゲハらしき人物がいないか注意して見ていた。
しかし、アゲハらしき人影はどこにもなかった。
きっとマシロからアゲハにも連絡が行き、アゲハは待ち合わせが中止になったと思ってこなかったのだろう。
それならばいいんだ。アゲハを待たせてしまうこともないし、僕は約束を守ったのだから後ろめたいことは何もない。後日、何か聞かれたら中止になったと思って行かなかったと言えばいい。
何故かほっとした気持ちの中、せっかく新宿に来たのだからと、新宿で唯一行ったことのあったクラシックBARに行くことにした。
そのとき、向こうから見覚えのある人影が近づいてきた。
アゲハだった。
僕らは一瞬でお互いを認識し、お互いに気まずく苦笑しながら近づいた。
「はじめまして、ジュンです。」
「あ、アゲハです。」
「マシロから連絡来ました?」
「うん、私行けないけど二人で楽しんで!みたいなメールがきて、それっきり連絡ありません。」
「そうですか(苦笑)」
マシロはいったい何を考えているのか、僕が待ち合わせ場所に行かなかったらアゲハを待たせてしまっていたところだった。待ち合わせ場所に行ってよかった。
僕らはこうして出会った。
(続く)