【連載】第10話「ロングスカートの女性との別れ」
スマホが見つかった時点で、もう僕とロングスカートの女性との間を繋ぐものは何もなくなっていた。
ウチに帰った僕はロングスカートの女性にスマホが見つかったことを伝え、たくさんの感謝とウチに引き止めてしまったことに対するお詫びをした。
そして、通話とインターネット通信をたくさんしてしまったので、かなりのお金がかかっただろうことを伝えた上でお金を渡そうとした。
しかし、ロングスカートの女性は
「お礼なんていいですよ、こちらこそ泊めていただいてありがとうございました。」
といい、頑なにお礼を拒み続けた。
そこへロングスカートの女性のスマホに着信が。
ロングスカートの女性の母親からだった。
「あんた連絡も寄こさず今どこにおんねん?早よう帰ってき!」
そんな電話だった。
ロングスカートの女性はスマホを耳に当て、困った様子で受けごたえをしていたが、昨日酔っ払って泊めてもらったというようなことを、嘘をつこうとせず素直に電話越しに伝えていた。
素直な子だな、誤魔化すとか考えないんだな、いい子だな
そんなことを感じて、僕もちゃんと説明させてもらわなきゃとロングスカートの女性のスマホを借り、電話を代わった。
「もしもし、○○といいます。
自分のスマホを無くしてしまい、娘さんのスマホを借りて探していてこんな時間になってしまいました。僕がスマホをずっと借りていたので娘さんが連絡できませんでした。僕のせいです。本当に申し訳ありませんでした。是非お世話になったお礼をさせていただきたいと娘さんに申し出たんですが、お礼なんかいいと言うのでどうしたらよいかと困っていたところです。」
素直な気持ちを、昨日初めて会い、ウチに泊まった、ロングスカートの女性の、お会いしたこともない母親に伝えることができたことには満足したのだが、女性の母親も
「お礼なんていいですよ、娘もいいって言ってるわけですから。お気遣いいただいてありがとうございます。」
とのこと。完全にお礼するキッカケを失ってしまった。
結局、なんのお礼もできないまま、ロングスカートの女性は家に帰ることになった。
駅まで送ることくらいしかできないのが申し訳なさすぎて、この感謝のホコ先をどこに向けたらよいのかわからず、別れ際に
「じゃあ連絡先だけでも交換させてください。困ったことがあったら連絡ください!」
と半ば無理矢理、連絡先を交換してもらい、僕らはバイバイした。
実際に残ったのはロングスカートの女性のLINEアカウントと電話番号だけだったが、僕の心にはロングスカートの女性に対するたくさんの感謝と彼女の素直な印象と、そして、振り返らずに真っ直ぐ駅へ向かうロングスカートがとても似合う細身の後ろ姿が強く強く彫みこまれた。
心の中で
「本当にありがとうございました!」
と感謝しつつ、僕はロングスカートの女性のいないウチへと帰った。
(続く)